「小説」 「僕と君と桜の花と」
「僕は君と桜の花を眺めながら、お酒を飲む。そんな幸せな未来があると信じてたんだ」
「……そうですね。私も、そう信じていました」
「でも、僕はあの日……」
あの日の事を思い出すと、今でも胸が張り裂けそうになる。
僕はあの日、死んだ。交通事故だった。
生前、目の前のこの少女は……僕の事を好きだと言ってくれた。あの時、もしも彼女の手を取っていたらどうなっていただろうか? 彼女は今頃、幸せだったんだろうか? 僕は、本当に彼女の事を好きになれたんだろうか?……答えは出ない。
だから、僕はもう1度この世界に戻る事が出来た。執念なのかな。それとも、未練か……。でも、どちらでもいいや。もう一度、彼女と会えたならそれでいい。
「私は、貴方が好きです。ずっと好きです。その気持ちに嘘はないですし、これから先も変わりません。何年経っても、何十年経っても。」
ここまで、言ってしまうのか、言わせてしまうのか。彼女はきっと気づいているだろう。僕が何を言いたいのかを。でも、それを口に出して言う事は出来ない。
「ありがとう。嬉しいよ。僕も君の事が好きだよ。大好きなんだ。心の底から愛してる」
「えぇ、知ってます。知っていますとも」
「だから……ごめんなさい。」
僕はペコリと頭を下げた。彼女には申し訳ないと思っている。だけど、それでも僕は進まなくちゃいけないんだ。だって、ここで彼女を受け入れてしまったら、また同じことを繰り返すだけだもの。
「謝らないで下さい。仕方の無いことです。それに、これで良かったんですよね?」
「うん。君には感謝しか無いよ。」
「いえ、私が勝手にやった事ですから。
それより、早く逝ってあげてください。」
「あぁ、そうだね。そろそろ行かないと。」
「最後に、一言だけ良いですか?」
「なんだい?」
「……さようなら」
「…………さようなら。」
そう言って、僕はその場を去った。
振り返ることも無く、前を向いて。
天国なんて、本当にあるのだろうか。
あったら、いいなと思う。
____そして、あれから一ヶ月程経ったある日の事だ。
「お姉ちゃん!今日は何する!?」
屈託の無い声で妹が私を呼ぶ。
「そうだなー……たまには二人で買い物とか行く?」
「うぅん、それも良いけどぉ〜……」
「じゃあ、映画見に行く?」
「それも魅力的だけどぉ〜」
「じゃあ、遊園地とかどう?」
「それもありかも!」
「決まりだね」
「うん!!」
……こんな会話が出来るようになっただけでも、凄く嬉しい。昔はあんなに暗い子だったのに、今ではすっかり明るくなった。これも、全部彼のおかげでもあるんだよなぁ……。
私は彼に出会えて良かったと思ってる。彼と出会わなければ今の自分はいないし、こうして笑う事も出来なかっただろう。
「本当に……ありがとう。」
「ん?何か言った?」
「何でもないよ。ほら、行こうか」
「うんっ!!」
私はこの笑顔を守る為に、頑張ろうと思った。
彼の事は忘れたくとも、忘れないだろう。
ありがとう。貴方。
完